優秀人材は「採る」から「育てる」へ。成功企業に学ぶ企業戦略
2026/10/30 (金)
コラム
「優秀な人材を採用できれば、組織は強くなる」。この考え方に加え、採用した人材をどう育てるかを重視する企業が増えています。事業環境の変化が速く、求められるスキルも変わり続ける中で、採用だけに頼らず、社内で人材を育てる力が企業の競争力を左右すると考えられるようになっているためです。
本コラムでは、「育てる」を軸にした人材戦略の考え方を整理したうえで、OJT・ジョブローテーション・研修・資格取得支援といった施策を、個人の成長という視点から紹介します。
目次
・はじめに:なぜ今「採る」から「育てる」へシフトしているのか?
・成功企業に共通する「育てる戦略」の土台
・成功企業の"育成戦略"に見られる共通点
・育成偏差値の高い企業が実践している"具体施策"
・まとめ:優秀人材は"採る時代"から"育てる時代"へ
・はじめに:なぜ今「採る」から「育てる」へシフトしているのか?
背景の一つは、採用市場の変化です。採用競争が続く中で、必要な人材を外部から確保し続けることは容易ではなく、入社した人材が定着し、成長してくれるかどうかが一層重要になっています。もう一つは、人的資本経営の広がりです。2023年3月期決算から、上場企業などを対象に、有価証券報告書で人材育成方針や社内環境整備方針の記載が求められるようになり、人材育成は社外にも説明する経営テーマとして位置づけられました。
一方、育成の現場には課題も残っています。厚生労働省の「令和6年度 能力開発基本調査」では、能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする事業所が79.9%にのぼりました。育成の重要性は認識されていても、運用に悩む企業が多いことがうかがえます。
・成功企業に共通する「育てる戦略」の土台
育成が成果につながっている企業を見ると、いくつかの土台が整えられているケースがあります。
第一に、経営戦略と人材育成のつながりです。どのような事業を目指し、そのためにどんなスキルや人材像が必要なのかを明確にしたうえで、育成の内容を設計しています。育成が単発の研修にとどまらず、経営の方向性と結びついていることが特徴です。
第二に、育成を現場任せにしない仕組みです。日常業務を通じて行うOJTは、現場の力量や状況に左右されやすい面があります。同調査によると、教育担当者や期間、内容などを定めた「計画的なOJT」を正社員に実施している事業所は61.1%でした。計画性をもって取り組めているかどうかが、育成の質を分ける一因になると考えられます。
第三に、経営層や管理職が育成を自らの役割として捉えていることです。育成は人事部門だけで完結せず、経営層から現場の管理職まで関与することで、組織全体の取り組みとして根づきやすくなります。
・成功企業の"育成戦略"に見られる共通点
成功企業の育成戦略に見られる共通点は、単一の施策に頼らず、複数の施策を組み合わせている点です。
OJTは、実際の業務を通じて実践力を養える点が強みですが、学べる内容が担当業務に偏りやすい面があります。ジョブローテーションは、複数の部署や職務を経験することで視野を広げ、キャリアの選択肢を考えるきっかけになりますが、専門性を深めるには時間がかかります。研修(OFF-JT)は、知識やスキルを体系的に学べる一方、業務での実践と結びつけなければ定着しにくいという課題があります。
こうした施策の限界を補い、個人が自らの意思で学ぶ「自己啓発」を組織として後押しすることも、共通点の一つです。同調査によると、令和6年度にOFF-JTを受講した労働者は37.0%、自己啓発を実施した労働者は36.8%で、いずれも4割弱にとどまります。会社が用意する施策だけでなく、個人の学びを引き出す仕組みが求められているといえます。
・育成偏差値の高い企業が実践している"具体施策"
育成に積極的な企業では、OJTや研修に加え、資格取得支援を人材育成の体系に位置づけているケースが見られます。
資格取得は、個人の成長に直結しやすい取り組みです。資格の学習を通じて体系的な知識が身につき、合格という客観的な成果も得られる点が特徴です。また、「いつまでに取得する」という明確な目標が生まれることで、学習の継続や達成体験につながり、成長意欲そのものを高める効果が期待できます。
具体的な支援策としては、受験費用の補助、合格報奨金、資格手当などの経済的支援です。あわせて、業務時間内での学習時間の確保、試験前の休暇制度、社内勉強会の開催など、学習しやすい環境を整える取り組みも有効と考えられます。社内だけで学習環境を用意することが難しい場合は、通信講座や専門スクールなど外部の教育機会を活用するのも一案です。学習形態を複数用意しておけば、社員それぞれの状況に合わせた学びを支えられるでしょう。
なお、同調査では、令和6年度の労働者1人当たりの平均支出額は、OFF-JTが1.5万円、自己啓発支援が0.4万円でした。自己啓発支援は、投資の余地がある領域と考えられます。
さらに、資格取得を人事制度と連動させる方法もあります。等級や評価、配置、キャリアパスと結びつければ、学習が処遇や将来像につながるという実感が生まれ、意欲の向上を後押しする形になります。基礎的な資格から上位資格へ段階的に挑戦できる設計であれば、取得後も学び続ける動機づけとして機能するでしょう。
注意したいのは、資格取得が目的化しないことです。取得した知識を業務で活かす機会や、学習成果を共有する場を設けることで、個人の成長が組織の成果にもつながります。
・まとめ:優秀人材は"採る時代"から"育てる時代"へ
優秀人材の確保は、採用だけでなく、入社後の育成によって差が生まれる時代になっています。OJT、ジョブローテーション、研修、そして資格取得支援を組み合わせ、個人の成長意欲を引き出す仕組みをつくることが、育成戦略の核心です。
人材育成は、短期間で成果が見えにくい取り組みですが、人的資本経営の広がりの中で、その重要性は今後も高まると考えられます。優秀人材は、採る時代から育てる時代へ。育成への投資が、企業の持続的な成長を支えます。





