なぜ「会計・財務リテラシー」は人材育成に必要なのか
2025/10/30 (木)
コラム
はじめに
ビジネスパーソンに求められるスキルは時代とともに変化していますが、なかでも会計・財務リテラシーは、職種や階層を問わず普遍的に重要な基礎能力として位置づけられています。多くの企業では経理部門以外の社員に対して会計教育が十分に行われていない現状がありますが、実際には営業、企画、開発、管理部門など、あらゆる部署において会計知識は日々の業務判断に直結しています。人材育成の観点から会計・財務リテラシーの強化は、個人の業務遂行能力の向上だけでなく、組織全体の収益性向上と戦略的意思決定の質の向上をもたらす重要な投資といえるでしょう。
目次
・会計リテラシーが重要な理由
・経理部門以外で会計リテラシーが生きる場面
・まとめ
・会計リテラシーが重要な理由
会計は「ビジネスの共通言語」と呼ばれています。企業活動のあらゆる側面は最終的に数字として表現され、その数字を正確に読み解く能力が組織内外のコミュニケーションの質を決定します。第一に、経営判断の質的向上が挙げられます。会計リテラシーを持つ社員は、自部門の業績数値を単なる結果として受け取るのではなく、その背景にある要因を分析し、改善策を導き出すことができます。売上高と利益率の関係、固定費と変動費の構造、損益分岐点の概念などを理解することで、より戦略的な業務遂行が可能になります。第二に、部門間の協働促進に寄与します。営業部門が追求する売上目標と、管理部門が重視する利益率やキャッシュフローは、時として対立するように見えることがあります。しかし、会計知識を共有することで、各部門が企業全体の財務目標を理解し、全社最適の視点から業務を遂行できるようになります。第三に、リスク管理能力の向上です。取引先の与信判断、新規事業への投資判断、コスト削減施策の評価など、ビジネスの様々な場面でリスクとリターンを定量的に評価する能力が求められます。財務諸表を読み解く力があれば、取引先の経営状況を客観的に評価し、適切なリスクヘッジを行うことができます。
・経理部門以外で会計リテラシーが生きる場面
会計知識は決して経理部門だけに必要なスキルではありません。むしろ、事業部門で働く社員こそが会計リテラシーを持つことで、その真価を発揮します。営業部門においては、会計知識が顧客との関係構築と収益性向上の両面で威力を発揮します。顧客企業の財務諸表を分析できる営業担当者は、相手企業の経営課題や投資余力を把握し、より的確な提案を行うことができます。また、自社の原価構造を理解することで、値引き交渉の際にも採算性を維持しながら柔軟な対応が可能になります。売掛金の回収管理においても、財務諸表から取引先の支払能力を評価し、回収リスクを事前に察知することができるでしょう。予算管理の場面では、会計リテラシーの重要性がさらに顕著になります。各部門のマネージャーは年次予算の策定と執行管理を担当しますが、損益計算書の構造を理解していなければ、実効性のある予算編成はできません。固定費と変動費を区別し、それぞれの性質に応じた管理手法を適用することで、効率的なコスト管理が実現します。予算と実績の差異分析においても、会計の視点から原因を特定し、迅速な対策を講じることが可能になります。商品開発部門においても、会計知識は製品戦略の成否を左右します。新製品開発の際、開発コストだけでなく、製造原価、販売費、投資回収期間などを総合的に評価する必要があります。損益分岐点分析により、どの程度の販売数量で採算が取れるかを事前に把握することで、より現実的な商品企画が可能になります。また、競合製品の価格設定から逆算して原価構造を推測し、自社の競争優位性を評価することもできるでしょう。システム設計や業務改善プロジェクトにおいても、会計的視点は不可欠です。新システムの導入や業務プロセスの改善を検討する際、初期投資額と年間削減効果を比較し、投資対効果を定量的に評価する必要があります。減価償却の概念を理解することで、設備投資の長期的な財務インパクトを正確に把握できます。また、間接部門の効率化施策においても、人件費削減効果を適切に算出し、経営層への説得力のある提案を行うことができます。
・まとめ
会計・財務リテラシーは、もはや一部の専門職だけに求められるスキルではありません。営業、企画、開発、管理など、あらゆる部門において、数字に基づく客観的な判断能力が競争力の源泉となっています。階層別研修に会計教育を組み込むことで、社員一人ひとりが自律的に業務判断を行い、組織全体の収益性向上に貢献できる人材へと成長します。簿記や財務分析の体系的な学習を通じて、ビジネスパーソンとしての基礎体力を強化し、変化の激しい経営環境において持続的に成長できる組織づくりを実現していきましょう。





