税務知識アップデート
2025/06/06 (金)
コラム
経理担当者を悩ます「インボイス制度」の実態
はじめに
2023年10月からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入され1年半が
経過した今、企業の経理担当者はさまざまな実務上の課題や疑問点をかかえて
おります。本コラムでは、実担当者が抱える事例等を、国税庁が公表するQ&A
や実務事例を用いて紹介いたします。普段、経理実務に従事されないビジネス
パーソンもご覧いただき、各事業運営にお役立てください。終盤には今後の改
正動向についてご紹介します。
目次
・国税庁Q&Aから見る事業者別の実務事例
・今後の改正動向について
・まとめ
国税庁Q&Aから見る事業者別の実務事例
【課税事業者の場合】
事例1: 一部の取引先がインボイス発行事業者になっていない
多くの企業が直面するのが、取引先がインボイス発行事業者になっていない
ケースです。国税庁Q&Aによれば、インボイス発行事業者ではない取引先から
の請求書では、原則として仕入税額控除を受けることができません。しかし、
「区分記載請求書等保存方式」の経過措置として、2023年10月から2029年9月
までの間は、免税事業者等からの仕入れについても、一定割合の仕入税額控除
が認められています(2023年10月〜2026年9月までは80%、2026年10月〜
2029年9月までは50%)。
<実務対応のポイント>
・取引先のインボイス発行事業者登録番号を確認・管理するシステムを構築
する
・経過措置期間中の控除率を考慮した経理処理を設定する
・取引先に対して登録を促すコミュニケーションを検討する
事例2: 返品・値引きの際のインボイス処理
商品の返品や値引きが発生した場合、適格返還請求書の発行が必要です。国税
庁Q&Aでは、「返品や値引き等の売上げに係る対価の返還等を行う場合には、
適格返還請求書の交付が必要」と明記されています。
<実務で多いミス>
・返品時に適格返還請求書を発行せず、次回の請求で相殺処理だけを行って
しまう
・返還請求書に必要事項(返還の年月日・返還額・税率・返還税額等)の記
載漏れ
【免税事業者の場合】
事例3: インボイス発行事業者になるべきかの判断
売上1,000万円以下の免税事業者にとって、インボイス発行事業者になるべきか
は重要な経営判断です。国税庁Q&Aでは「取引先が課税事業者であるか、イン
ボイスを必要としているかを考慮して判断する」としています。
実際には、取引先が課税事業者である場合、インボイスを発行できない免税事
業者との取引を避ける傾向があります。一方で、登録することで消費税の納税
義務が生じるため、コストとベネフィットのバランスを考慮する必要がありま
す。
<実務対応のポイント>
・主要取引先の要望を確認する
・簡易課税制度の活用可能性を検討する
・経過措置期間終了後の影響を試算する
【個人事業主の場合】
事例4: 複数の事業を営む場合の区分経理
個人事業主が複数の事業を営んでいる場合、国税庁Q&Aでは「事業ごとに区分
して申告する必要はなく、事業全体でインボイス発行事業者として登録する」
としています。
<実務で多いミス>
・一部の事業のみインボイス対応と誤解している
・事業ごとに屋号が登録できると誤解している
今後の改正動向について
1. 電子インボイスの推進
2024年度税制改正では、電子インボイスの普及促進に関する施策が盛り込まれ
ました。具体的には、2026年1月から電子インボイス(e-Invoice)の保存に関
する要件が緩和され、データでの受領・保存がより容易になります。
紙のインボイスからデジタル化への移行を進めることで、業務効率化とコスト
削減が期待されています。さらに、将来的には「Peppol(ペポル)」という国際
標準規格を採用した電子インボイスシステムの導入も検討されています。
2. インボイス制度の見直し
現在の経過措置が2029年9月で終了することを見据え、制度の見直しも検討され
ています。特に小規模事業者への配慮として、簡易課税制度の適用上限の見直し
や、電子インボイス対応のための支援措置の拡充が議論されています。
3. 国際的な動向との調和
EU諸国や韓国、台湾などでは、すでに電子インボイス制度が義務化されていま
す。日本のインボイス制度も国際的な標準と調和を図りながら、さらなる発展
が予想されます。
まとめ
インボイス制度は導入から1年半が経過し、多くの企業が対応に追われていま
す。日々の実務において、取引先との関係性、システム対応、経理処理の変更
など、さまざまな課題が生じていますが、正確な制度理解と適切な対応策の
実施が重要です。今後も法令改正や運用通知に注目しながら、実務で活用でき
る知識をアップデートしていきましょう。